インボイス未登録(免税)事業者は“消費税相当額”を上乗せ請求してよいのか?――合法性・注意点・買手側の実務処理まで完全解説

 

この記事の結論(先に要点)

  • **免税(=非適格請求書発行)事業者でも、価格に「消費税相当額」を上乗せして請求すること自体は違法ではありません。**国税庁Q&Aが明言しています。(国税庁)
  • ただし、インボイス様式と誤認される表示はNG(罰則対象)。登録番号ふうの記載などは厳禁です。(国税庁)
  • 買手の処理:未登録者からの仕入れは取引の性質上「課税仕入れ」ですが、仕入税額控除は経過措置で一部のみ可(80%→50%→原則0%)。期間・要件に注意。(国税庁)

1. 「上乗せ請求」はなぜ合法なのか

国税庁Q&Aは、免税事業者であっても、仕入時に負担した消費税相当額を取引価格に上乗せして請求することは「適正な転嫁」で差し支えないと明記しています。
ポイントは「価格表示・総額表示の一部として“消費税相当額”を示しているに過ぎず、“預り消費税”として納付義務が生じるわけではない」点です。(国税庁)

例)請求額 110,000円(うち消費税相当額 10,000円)
※当方は適格請求書発行事業者ではありません(インボイスの交付はできません)。


2. 絶対に越えてはいけない線:誤認表示と罰則

未登録のまま、インボイスと誤認させる表示(T+13桁など登録番号らしき記載、自分の番号でない番号の記載 等)をした書類・データの交付は禁止
1年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となり得ます。表現は厳密に。(国税庁)

  • 安全な書きぶり
    • 「消費税相当額」「税込」などの価格内訳表示にとどめる
    • 登録番号は一切記載しない
    • 注記「当方は適格請求書発行事業者ではありません」を添える

3. 買手側の実務:経過措置と「課税仕入れ」判定

3-1. 取引の性質

未登録者からの購入でも、国内課税要件を満たすなら取引の性質は“課税仕入れ”です。違いは仕入税額控除の可否・割合です。(国税庁)

3-2. 仕入税額控除の経過措置(6年間)

期間 控除割合 要件のイメージ
2023/10/1~2026/9/30 80% 区分記載請求書等の保存が必要(インボイス不要)
2026/10/1~2029/9/30 50% 同上
2029/10/1以降 原則0% 未登録者からの仕入は控除不可
(※細かな保存要件・限度規定等あり)(国税庁)

4. 仕訳・税務処理(税抜経理の実務例)

ケースA:標準税率10%、請求110,000円(うち“消費税相当額”10,000円表示あり)

① 経過措置(控除80%の期間)

  • 借方:仕入 100,000
  • 借方:仮払消費税等 8,000(=10,000×80% 控除対象)
  • 借方:控除対象外消費税 2,000(=10,000×20% → 原価・費用に加算)
  • 貸方:現預金 110,000

② 経過措置(控除50%の期間)

  • 借方:仕入 100,000
  • 借方:仮払消費税等 5,000
  • 借方:控除対象外消費税 5,000
  • 貸方:現預金 110,000

③ 控除不可期(2029/10/1~)

  • 借方:仕入 110,000(または「仕入100,000+控除対象外消費税10,000」)
  • 貸方:現預金 110,000

メモ:固定資産なら控除不能分は取得原価に算入。費用科目は「租税公課」より原価や該当費目へ加算が整合的。

ケースB:軽減税率8%、請求108,000円(うち“消費税相当額”8,000円)

考え方は同じ。控除対象=“消費税相当額 × 経過措置割合”。(国税庁)


5. 売手側(未登録者)の安全運用チェックリスト

  • 請求書は総額表示+「消費税相当額」注記にとどめる
  • 登録番号やそれに類する表記は一切しない
  • 取引先からの要望があっても、インボイス形式の体裁は使わない
  • 注記:「当方は適格請求書発行事業者ではありません(インボイス交付不可)
  • 価格合意時点で、相手が仕入税額控除を満額取れないことを説明(取引条件の齟齬防止:公取委Q&A参照)(日本取引所グループ)

6. 価格交渉・契約書面の実務ポイント(買手・売手双方)

  • 買手:未登録先からの仕入は、自社の控除不可・一部控除を織り込んで仕入価格を設計
  • 売手:未登録で行く場合は、総額の根拠(消費税相当額含む)を明確化し、インボイス非対応の旨を明記
  • 合意文言の例(注文書・基本契約の条項に)

    本取引は、相手方が適格請求書発行事業者でないことを前提とし、対価総額は消費税相当額を含む価格として合意する。買手は当該相当額について仕入税額控除の全部又は一部ができない可能性があることを承知する。

(公取委の留意点:免税先と取引する際は価格条件の認識齟齬を避けること)(日本取引所グループ)


7. よくあるQ&A

Q1. 免税事業者が“8%”を付けて請求してきた。合法?
A. 合法になり得ます。軽減税率対象(飲食料品等)なら税率8%の内訳表示になっているだけの可能性。未登録でも総額表示の内訳としての記載にとどまる限り差し支えありません(誤認表示は不可)。(国税庁)

Q2. 未登録先からの仕入は「課税仕入れ」にならない?
A. 取引の性質は課税仕入れです。相違は控除割合のみ(経過措置→将来は原則0%)。(国税庁)

Q3. 買手側の保存書類は?
A. 経過措置の適用には区分記載請求書等+帳簿の保存が必要です。様式・記載事項を確認しましょう。(国税庁)

Q4. 罰則は何に注意?
A. 適格請求書と誤認されるおそれのある表示で書類を交付する行為は罰則対象です。登録番号らしき表現は避けてください。(国税庁)


8. まとめ(実務フロー)

  1. 取引相手の登録有無を確認(国税庁公表サイトで登録番号検索)
  2. 未登録なら:
    価格交渉で控除不可・一部控除を織り込む(公取委Q&Aの留意点)(日本取引所グループ)
    – 売手は総額表示+「消費税相当額」注記誤認表示回避
  3. 会計処理:
    – 経過措置期間は**“消費税相当額×控除割合”のみ仮払処理**、残りは原価・費用へ
  4. 保存要件:
    区分記載請求書等+帳簿を確実に保存(経過措置の必須要件)(国税庁)

参考リンク(国税庁・公取委)

  • 免税事業者の請求書Q&A(「上乗せ請求は差し支えない」等を明記)(国税庁)
  • 免税事業者からの仕入に係る**経過措置(80%→50%→原則0%)**の概要と要件(国税庁)
  • 誤認されるおそれのある表示の禁止・罰則(研究資料/FAQ)(国税庁)
  • 取引条件の留意点(公正取引委員会Q&A)(日本取引所グループ)

ひな形(そのまま使える注記例)

当方は適格請求書発行事業者ではありません。請求金額は税込の総額であり、内訳として消費税相当額を表示しています。インボイスの交付はできません。


 

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